認知症発症前の相続対策と不動産売却

この事例は生前の対策として取られた手段で、最近増えてきている家族信託を使った売却の例です。

父(33歳)、母(80歳)、長女(56歳)、次女(53歳)、長男(50歳)の家族構成。父はまだ元気だが認知症の兆候があり、母は健康に問題があるものの、元気に暮らしています。現金は2000万円ほどあり、実家の土地建物と築50年以上のアパート1棟、その他複数の不動産を持っています(評価額は4億円)。すべての不動産は父名義です。

最近、父の認知症の疑いがあり、施設入所が必要になるかもしれない状況でした。この問題を長女と次女が長男に相談し、相続税を考慮して対策を講じる必要があるかどうかを議論しました。

初めは不動産を持っている場所にアパートを建設し相続対策を検討しましたが、その場所は交通の便が悪く将来的に賃貸需要が不安定な点、またこれまで借金をしていなかったことから、アパート建設は見送りにしました。

ただ相続対策をしっかりと行いたいという希望があり、納税資金を確保するために不動産の一部を売却することにしました。この地域はまだ不動産需要が高く、急いで売却すると買い手に損をさせる可能性があるため、今が売却に適した時期だと判断しました。

しかし父の健康状態が心配され、認知症が進行すると売却についての意思決定が困難になる可能性が高かったため、家族信託を利用することになりました。具体的には、売却する土地を家族信託に委託し、父(委託者)は長男を受託者として信託契約を締結し、不動産の売却手続きを長男に委ねることにしました。これにより父名義の不動産を長男が売却できるようになり、父が認知症になっても不動産の処分が可能になりました。

納税資金は約4000万円(父が先に亡くなった場合の場合)を確保し、不動産売却時にかかる譲渡税(約20%)を考慮し、不動産の一部を8000万円で売却しました。

不動産売買契約後、父の認知症が進行し、怪我をして入院する事態が発生しました。

このケースは、生前の相続対策として家族信託を活用した例です。今までは成年後見制度を使うことが多かったが、手続きの複雑さや家族での売却などが困難な場合があるため、家族信託が有効な手段となることがあります。

65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計によると、認知症高齢者数は増加傾向にあります。家族信託は完璧な制度ではありませんが、生前の相続対策として活用されるケースが増える傾向にあります。