特別受益の3つのポイント

生前贈与にまつわる特別受益に関する問題は絶えることがありません。今後、または既に生前贈与を行った方々は、特別受益についての基本知識をしっかりと理解しておくことが重要です。以下に、対象となる生前贈与、時効、および持ち戻し免除の意思表示という3つのポイントについて解説いたします。

① 対象となる生前贈与

親が子供に資金援助をする場合でも、そのすべてが特別受益に該当するわけではありません。特別受益の対象となる生前贈与は、「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」です。言い換えれば、「家族としての通常の支援ではなく、大きな贈与を指す」と言えます。例えば、子供が新居の頭金を親から援助される場合などが特別受益の代表例です。結婚に伴う持参金や支度金も、金額が大きければ特別受益に該当します。ただし、結納金や挙式費用は通常特別受益には含まれません。特定の子供だけが進学する場合の学費差額も特別受益になり得ます。また、相続税対策の生前贈与は、高い確率で特別受益とされることがあります。

② 時効

特別受益には時効の概念が存在しません。極端な話、何十年も前の生前贈与であっても特別受益があれば、時効の対象となります。ただし、実際に何十年も前の生前贈与を証明するのは非常に難しいことです。

③ 持ち戻し免除の意思表示

通常、特別受益となる生前贈与は、遺産分割時に特別受益を持ち戻して相続分を決定する原則があります。しかし、生前贈与を行った人が「特別受益として持ち戻さなくても良い」という意思表示をした場合、持ち戻し計算は免除されます。この意思表示を「特別受益の持ち戻し免除の意思表示」と呼びます。法律上、口頭でも成立しますが、紛争を避けるためには書面に残すことをお勧めします。

特記事項: 婚姻20年以上の夫婦における自宅贈与

2019年7月1日から、婚姻20年以上の夫婦による自宅の生前贈与においては、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったものと見なされるようになりました。この改正では「推定」がポイントであり、意思表示の有無に関わらず、特別受益の持ち戻しは免除されます。夫婦関係においても特別受益の考え方が適用され、相続争いを回避するためにもこの改正の内容を理解しておくことが重要です。

特別受益に関する理解は、夫婦間だけでなく親子関係においても重要です。特に、前妻との子供と後妻の間柄では注意が必要です。後妻に対する生前贈与は特別受益として扱うべきとの主張があるため、このような事態を避けるためにも民法改正の内容をしっかり理解しておくことが望まれます。