不動産の売買契約について

1. 不動産の売買契約書

不動産の売買契約は、売主と買主の合意により成立する諾成契約です。書面の作成は契約成立の要件ではありませんが、宅地建物取引業者が売主として契約を締結する場合や媒介・代理を行う場合には、書面(いわゆる契約書)の作成・交付が義務付けられています(宅地建物取引業法第37条)。

民法では、売買契約に関する標準的な規定が設けられており、契約当事者が合意した特約条項は、民法の規定を排除する当事者の意思の表明となります。不動産売買契約書では、手付金や契約不適合責任に関する条項が特に重要です。これらの条項は、取引の当事者や特約の内容により異なる取り扱いが求められます。

2. 契約当事者

(1) 契約当事者の確認

売買契約では、契約当事者が本人であることを確認する必要があります。登記には公信力がないため、売主が真正の所有者であるとは限りません。このため、固定資産課税台帳などを用いて納税者を確認することが重要です。

当事者名の記載には決まりはありませんが、自筆で署名することを「署名」といい、パソコンやゴム印で記載することを「記名」といいます。印鑑の押印については、印鑑登録証明書を提出し、実印を使用することが一般的です。

(2) 行為能力の確認

契約当事者が本人であっても、その行為能力を確認する必要があります。制限行為能力者制度は、年齢や判断力の程度に基づき、一定範囲の者の行為能力を制限する制度です。制限行為能力者が保護者の同意なく行った契約は取り消すことができます。また、成年被後見人の場合は、成年後見人が代理して契約を行う必要があります。

(3) 当事者の代理人について

契約当事者が本人ではなく代理人である場合、代理権の有無とその範囲を確認する必要があります。

① 代理人の行為能力

制限行為能力者も代理人になることができます。未成年者等が代理人として締結した契約について、本人や相手方は親権者等の同意がないことを理由に取り消すことはできません。

代理人が本人のために行う意思表示は、本人に直接効力を生じます。代理人が本人のためにすることを示さない場合、その意思表示は自己のためにしたものとみなされます。ただし、相手方が代理人が本人のために行うことを知っていた場合、その効力は本人に及びます。

② 無権代理と表見代理

a) 無権代理 無権代理人が他人の代理人として行った契約は、本人に代理権がないため効力を生じません。ただし、本人が追認すれば有効となります。善意の相手方は、本人が追認するまで契約を取り消すことができます。無権代理人が追認を得られない場合や代理権を証明できない場合、善意無過失の相手方は契約の履行または損害賠償を請求できます。

b) 表見代理 無権代理であっても、相手方が本人に代理権があると信じるに足る理由がある場合、表見代理として本人にその効力が及びます。相手方が善意無過失であれば、その効果が本人に及びます。

③ 複代理人

委任による代理人は、本人の許諾を得た場合ややむを得ない事由がある場合に限り、複代理人を選任できます。複代理人は、本人および第三者に対して代理人と同一の権利・義務を有します。

④ 代理権の消滅事由

代理権の消滅事由には以下のものがあります。

  • 本人の死亡
  • 代理人の死亡、後見開始の審判、破産手続開始の決定
  • 委任による代理権の場合、委任の終了
⑤ 自己契約と双方代理

自己契約や双方代理は、無権代理人が行った行為とみなされます。本人や当事者双方の許諾がある場合や債務を履行した場合は認められます。

⑥ 代理行為の瑕疵

代理人が詐欺や強迫によって意思表示をした場合、その契約の取り消しは代理人を基準に判断されます。相手方の意思が不存在の場合も同様です。本人が相手方の意思の不存在を知っていた場合は、取り消しはできません。


不動産売買契約においては、契約書の内容や当事者の確認が重要です。正確な情報を元に、適切な手続きを踏むことが求められます。