なぜ遺産分割で揉めるのか
社会的な背景
家庭裁判所で取り扱われた遺産分割事件の件数を示した図表4-2からわかるように、遺産分割事件の件数は増加しています。平成24年の1万741件から令和元年の1万2785件まで約2000件増加し、約1%も増加しています。これは遺産分割に関するものであり、共有不動産の解消に関する事件も含めるとその件数はさらに増加するでしょう。
昭和24(1947)年5月2日まで、旧民法によって相続は家督相続によって行われ、戸主である被相続人が亡くなった場合、長男がすべての遺産を継承・相続することが規定されていました。家督相続は昭和2年に制度として廃止されましたが、その影響が今も残っており、揉め事に発展するケースがあります。
以下はその一例です。
- 被相続人が事業を行っており、その事業を長男が引き継ぐことになり、遺産の大部分を相続する。
- 被相続人の家系は先祖代々その土地に住み、家を守り、大きくしてきた。その先祖代々の土地を守るため、実家に残った長男が遺産の大半を相続する。
昭和の初期生まれの世代は、家督相続により資産を受け継いでおり、「長男が家を守る」という考え方が残っているため、現役世代とのギャップが生じがちです。これは、長男にとっては有利ですが、他の相続人にとっては不利な考え方になります。
近年の世帯別平均所得を見ると、平成11(1999)年から平成30(2018)年までの20年間に世帯別の平均所得は約7万円減少し、増減率はマイナス約2%となっています。世帯年収が増えず、むしろ減少している中で、社会的な負担はますます大きくなり、現役世代の将来への不安が増加しています。子育てにかかる費用の増加も相まって、子供が親から少しでも多くの財産を相続したいと考えるのは自然なことです。
家督相続が廃止されたことで、各相続人の権利意識が強くなる一方で、生活は苦しくなり、相続財産への期待が大きくなるという社会的な背景が、遺産分割トラブルが増える原因の一つになっていると考えられます。